異邦人(いりびと)/原田マハ


   「美」は魔物

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「アートのためならすべてを捨てて突き詰めていくという
―― 芸術至上主義の人を書きたくて登場させたのが菜穂 ――
彼女は私の理想像 ―― 美のためなら夫をも蹴散らしていく、
圧倒的に強い女性を描きたかった」
と、女性誌に語った著者

アートキュレーターでもある氏が描く本書は
浅学の身には、分からないことだらけ
数ページ読んでは付箋
また付箋  また・・・

和服や壁の色を表現するだけで
焦香、枡花色、藍鉄色、薄梅鼠、山鳩色、鳩羽鼠、浅葱色・・・
ことばが美しい

ネット検索をしながら読み進む
もちろん わくわくしながら


寝室の壁に相対する写真
杉本博司・・海景
アンセル・アダムス・・ムーンライズ

どんな写真?と検索する

そしてパウル・クレーも・・・

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           お借りしてきました

架空と実在が同時に書かれる小説は
「無知である自分」をつくづく思い知らされる

物語は有吉美術館運営に関わる有吉菜穂と
画廊を経営する篁一輝が結婚
共に資金難から発生する人間関係に重きを置いて展開する

ストーリーそのものには少々興味薄
最後の部分はドラマチックに締めましたねという感じ

それよりも
芸術家としての画家
利益が絡む画廊
この関係は色々な意味で興味深い

画廊が画家を見出し そして売り出す
この構図に修羅も感じる

ひとの欲が絡むと
「美」は魔物
深淵であやうい                


日日是好日

     学校もお茶も、目指しているのは人の成長だ。
     けれど、一つ、大きくちがう。
     それは、学校はいつも「他人」と比べ、
     お茶は「きのうまでの自分」と比べることだった。
                 ........本文より........

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行儀作法としか思っていなかった「お茶」が
20年のお稽古を経て、茶道の奥深さに
魅せられていく作者の心模様が描かれている

平易なことばで綴られる文章は
美しく 穏やかだ

静謐
茶釜にわく湯の音が聴こえてくるようだ
  (「松風」と名前があるのですねぇ)


茶道がこんなにも魅力的で奥深いものとは
知らなかった

今からでも遅くない
いつもならそう思うでしょう
ただわたくしは日本茶が苦手なのだ
家で日本茶を飲むことは皆無

茶道に関する言葉のあれこれにも興味がわく
かけじくの意味も知りたい
茶花についても知りたい
季節の意味合いも知りたい

そんなことを思いながら
何かとても大切な物を遠くに置いてきたような
気持ちになっている


静かなお茶室に六月の雨の音
梅雨の雨音と秋雨の音は違う
十一月の雨は、しおしおと淋しげに土にしみ込んでいく
同じ雨なのに

葉っぱが枯れてしまったからなんだ
六月の雨音は、若い葉が雨をはね返す



作品の静けさに
読みながら音が聴こえる

耳だけは頗る良い
他の人に聞こえない音まで聴こえる
聴こえすぎて疲れるほどに

静けさの中に
季節の音を楽しんでみたい
あたかもお茶室に正座をしているかのように
せめてお茶の空間を味わってみたい


和菓子(茶菓子)は繊細で美しい
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茶道具には干支の道具がある
使用はその年の正月と最後のお稽古に限定されている
あとは木箱に仕舞われ十二年後を待つ


干支の茶碗が、こう言っているような気がした。
「いろんなことがあるけれど、気長に生きて行きなさい。
じっくり自分を作っていきなさい。
人生は、長い目で、今この時を生きることだよ」
                                               ........本文より........



♪きっと君は来ない

 
 雨は夜更け過ぎに
 雪へと変わるだろう
 Silent night,Holy night
 きっと君は来ない
 ・・・・   /山下達郎イメージ 1

 クリスマスの季節になると 何度も口遊む   
 この曲と一緒に流れたJR東海のコマーシャル
 切なさといっしょに思い出す

 携帯電話の無かった時代
 待ち合わせは 色々な思いの巡る時間だった
 約束の時間が過ぎると
 どうしたのかしら 事故にでもあったのかしら
 約束を忘れてないかしら
 30分待ったのだから あと10分 あと5分 あともう少し・・・

 「待ち侘びる」とか「待ち疲れる」と言う
 そんな気持ちを見つめることが
 携帯電話世代の若者にあるのだろうか

 先日の通信トラブル
 公衆電話の使い方が分からない若者がいた
 新しい時代がすでに始まっている

 
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 車も空を飛ぶのだろう         
 映画の中では
 もう飛んでいるのだから


  
 

不思議な心模様

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 「僕が殺した人と僕を殺した人」
            /東山 彰良

 13歳 中学一年生の3人の少年たち
 それぞれに家庭の事情を抱えている

 6歳年上の兄の死によって
 心を病む母を持つユン
 継父の暴力から不良の道を行くジェイ
 両親の不仲で平穏ではない日々の
 アホン



 3人の少年が出会い 台湾でかけがえのない日々を過ごした
 そして別れ 
 二十数年後、ひとりは連続殺人鬼、ひとりは弁護士
 ひとりは弁護の依頼人として 再び支えあう

 湿っぽい気分にはならないのだけれど
 とても切ない 
 優しすぎて 温かくて 切ない

 切なさにアジアンな香辛料の匂いがして
 不思議な気持ちになった


 お邪魔するブロガーさんが
 同氏の「流」を記事にしていました
 予約者が複数いてすぐには借りられなかったので

 暗示的なタイトルに魅かれて
 「僕が殺した人と-------」を借りてみた 初めての作家さん

                   空気がとても澄んでいた朝
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紙つなげ!

 
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 【紙つなげ !】 佐々涼子

 日本製紙石巻工場に働く人々を
 通して見た 2011311

 テレビでは知り得なかった
 東日本大震災のノンフィクション


  震災後に仙台を訪れた時
 地元の人が言った


 「流された車には人が乗っていた
  テレビでは人が消されているんだ


 「そうだったのか」と
  初めて気付かされた


  石巻工場の人々が聞いたクラクションの音
  津波に飲みこまれながら 
  あちこちで鳴るクラクションの音が少しずつ小さくなり 
  最後のひとつが消えて 静寂


   水が車内に満ち 意識を失う刹那 何を思ったのだろう・・・
  為す術もなくその音を聞く人々の 悲しみ


   死んで行くことの無念 
  忘れることのできない体験を身に負いながら生きる重さ
  どちらも並大抵のことではない
   (生涯忘れることはないであろう音)


  災害の時の自制心に満ちた日本人の振る舞いは美談だ
  でも違う
  場違いな金属バットやゴルフクラブを持ち、略奪するひと
  地元の人々の現実の声はテレビからは聞こえてこなかった


   日本製紙は日本の出版用紙の約4割を担っている
  その会社の主力工場が石巻工場なのだ


  電子書籍の台頭で紙離れが続いている
   私は断然 紙派
   本を開いたときのインクの匂い
   言葉を思い出すときに
   「あの文章・・何ページ頃の真ん中あたりにあったような・・」
   そんな記憶も 紙だからできる


   紙を作る人たちの 紙への愛が凄い
   文庫本の紙質も「拘り」で出版社によって異なることも初めて知った


   漫画本だって、とても紙に拘っている
   安価だから更紙で良いのかと思っていたら そうではない
   上質紙で仕上がった「薄い」漫画本は 子供が手にして嬉しくない
   厚みがあって しかも軽くないといけない・・・などなど


   紙は化学だ
   紙にわくわくしてしまう一冊
   紙を見るに 前のめりになりそうだ

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私が一番

 
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 久しぶりのブログ
 久しぶりの 沢木耕太郎

 【銀河を渡る】
 あとがきを含めて
 461ページにもなる
 エッセイ集

 図書館の書架に並ぶ前に
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 真っ新の本

 いつもは「しおり紐」を使わないのですが
 1番なので 使います
 読み始めて ただいま P28
 
 読み方は 「あとがき」を先に読みます
 読みながらこれまでとは違う感覚を覚え
 沢木氏も70歳を超えたのだ、と思いました
 
 2つ目の作品
 『買物ブギ』の中に
 -----物を買うことが楽しい、という感覚が決定的に欠けている----
         (こういう感覚 よく分かる)

 氏のお金への向き合い方も 好きです

 恬淡とした空気感に 私自身が身を置きながら
 「変わっている」と言われる自分を肯定できるのかもしれない

 読むと いつもほっとします
 小さいけれど 表紙の藤田嗣治の作品も素敵です