蜘蛛の糸
【或日の事でございます】
冒頭の一行で
遠い昔が 一気によみがえる
ざわめきや匂い
教室の少し淀んだ空気
お若い作家さんを選んだ時には
ちょっとだけ
古い作品を一緒に借りる
授業で習ったのか 自分で選んで読んだのか
或いは 有名すぎる書き出しに
読んだ気になっていたのか
もう今では思い出せない
そんな本たちの一行が 次々に浮かんできた
【或日の事でございます】 あ~ これこれと思うと
【国境の長いトンネルを抜けると雪国であった】
【行く河の流れは絶えずして・・・】
【男もすなる日記といふものを・・・】
【月日は百代の過客にして 行きかふ年もまた旅人なり】
【・・・智に働けば角が立つ 情に棹させば流される 意地を通せば窮屈だ・・・】
【木曽路はすべて山の中である】
次々と何の脈絡もなく 口を衝いて出てくる
(思い出すときは ほぼ ひらがなです)
名作は 冒頭の一行で こころを鷲掴みにする